文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)
 先端技術を駆使したHLA多型・進化・疾病
 に関する統合的研究

 (領域略称名 HLA進化と疾病)  
 領域代表者 九州大学高等研究院・笹月健彦
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 <研究の学術的背景>
 ヒトのMHC(Major Histocompatibility Complex、主要組織適合遺伝子複合体)であるHLAは、生体防御の最前線で、多様な病原体由来のペプチドと結合し、抗原特異的免疫応答を制御している。HLAは、少なくとも11個の遺伝子座からなる多重遺伝子族を構成し、全体で4,000を超す対立遺伝子が存在し、ヒトゲノムの中で最も多型性に富む遺伝子群である。各遺伝子座の特定の対立遺伝子間に強い連鎖不平衡があり、各人種ごとに特有のHLAハプロタイプが存在する。このHLAの比類ない特徴は、病原体との永い戦いを通して獲得されたと推測されるが、その機序は不詳で解決されるべき重要な課題である。

 HLAは、自己タンパク由来のペプチドを結合できるものが選択され、さらに膨大な外来病原体タンパク由来のペプチドと結合でき感染防御に寄与するHLAが選択され、このHLAが、再び特定の自己ペプチドと結合して、自己免疫疾患を誘導すると推測される。HLAの成り立ちの進化学的解明には、個々のHLAが結合出来る自己および病原体ペプチドレパトワ、さらに疾病の原因となる自己ペプチドの特定が重要であるが、これまでは技術的制約のため著しく困難であった。

 特定のHLA対立遺伝子が、自己免疫疾患、アレルギー疾患、感染症などと相関を示すことが報告されてきた。しかもナルコレプシーとHLA-DQ6のように相対危険度が1,468という例もあり、非HLA遺伝子の相対危険度の多くが2.0以下であるのと比べ、圧倒的に強い相関を示す。しかし、多くの例ではHLAハプロタイプ上のどの対立遺伝子が真の原因遺伝子か、そのHLAに結合する病因ペプチドは何か、など根本的疑問が解決されておらず、相関の分子生物学的機序は未だに不詳であり、その解明による新しい医療の開発が喫緊の課題である。

 このようにHLAに関するゲノム進化学、免疫学、臨床医学の重要課題が、解析技術の制約により未解決のまま残されてきた。そこに、この1〜2年のゲノム科学とタンパク科学における革新的技術開発が起こり、
(ⅰ)3.8Mbに及ぶHLA遺伝子領域について、多数サンプルの多型性解析が可能となった。
(ⅱ)最新の質量分析計により、HLA分子に結合するペプチドを、従来の100種類と比べ1,000種類オーダーで同定可能となった。
(ⅲ)ヒト全タンパク配列データベースが構築され、ヒト臓器・組織・細胞特異的発現遺伝子の解明が可能となった。
(ⅳ)ウイルス、細菌など病原体のゲノムデータベースが充実した。
(ⅴ)タンパク分子高次構造解析技術が格段に進歩した。
(ⅵ)ケミカルバイオロジーおよびバイオインフォマーティクスの知識と技術が大進展を遂げた。
(ⅶ)上質な臨床データを付与した、患者集団由来のDNA収集の土壌が形成された。

 以上の先端技術と先端情報を駆使し、HLAの成り立ちの進化学的解明、および免疫応答関連疾患におけるHLAの役割の解明と、先駆的医療法開発への道を拓く研究を同時並行で進める条件が整った。

<研究の目的>
 
「HLAの成り立ちの進化学的解明」および「免疫応答関連疾患発症におけるHLAの役割の解明とHLAを標的とした分子創薬のための免疫抑制分子の解明」を目的に掲げ、ゲノム科学とタンパク科学における革新的技術とヒト全タンパク配列データベース、病原体のゲノムデータベースなどの先端情報を活用して、研究分野の枠組みを越えた統合的HLA研究を展開する。

<基本的な研究戦略と領域内連携>
 HLAは各人種間に大きな差があり、このことは、各人種間において強い選択圧となった病原体の種類が異なったことを推測させ、各人種特有の頻度の高いHLAは、感染防御としてその人種に適したHLAであったと推測される。ところがそのHLAが、内在性自己ペプチドと結合し、免疫関連疾患と強く相関することから、このようなHLAの多様性と多型性の由来を考える時、感染症との戦いだけではなく、免疫応答に由来した免疫関連疾患の遺伝要因としてのHLAの重要な役割をも、表裏一体に考えながら研究を進めることが重要である。
 このことを念頭に置いて、日本人集団に特異的かつ頻度の高いHLA、さらに日本人で疾病と強く相関するHLAを対象として、HLA遺伝子を含む最長10Mbのゲノム解析、HLAタンパク高次構造解析、HLA結合ペプチド解析、ペプチドモチーフ解析、HLA・ペプチド結合阻止分子の開発、結合阻止分子の免疫応答阻止能解析を行う。これらの情報を含む「HLA統合データベース」を構築し、研究者間で共有する。これの活用および研究成果産物(低分子化合物等)の応用により、疾病発現におけるHLAの役割の解明、疾病の予防と制御、重症化阻止などのための分子創薬への道を拓く。さらに「HLA統合データベース」に加えて、ヒト全タンパクに関する既存のデータベース、および既存の病原体ゲノムデータベースを活用することにより、HLAの進化に関する研究を推進する。
 以下に領域内の研究連携を図示した。
 
  <期待される成果>
 

 文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「HLA進化と疾病」
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